『小さい者とともに』ジャン・バニエ(3)

『ラルシュのこころ』 ―小さい者とともに、神に生かされる日々―
                           ジャン・バニエ(Jean Vanier)
【第二章 貧しい人の秘儀を中心とする求道性】
 1963年、トマ・フィリプ神父の手助けを得て、私は「低さ」という世界を発見しました。入所施設や精神病院を訪ねながら、精神病、あるいは知的ハンディを持つ人の世界を初めて知りました。深い悲しみと錯乱の世界でした。
 私はパリ郊外のある施設で、ラファエルとフィリップに会いました。痛ましい所でした。仕事もなく、暴力と失意の耐え難い叫びしか聞こえてきませんでした。ラファエルは脳炎のために話せない子どもで、体にはバランスがなく、知的ハンディで苦しんでいました。フィリップもおよそ同じ状況でした。二人は両親がなくなったために施設に入れられ、固い壁に閉じ込められていたのです。
 フランスの北部、トローリーという村で、だれも使っていなかった小さな家を買うことができたので、一緒に住もうと、私は二人を招きました。こうしてラルシュの冒険が始まったのです。
 二人とともに生活していて、最初に気づいたことは苦しみの深さです。この苦しみの深さは、親や周囲の人にとって、自分の存在自体が苦しみの原因となっていることから来ています。
 ラファエルとフィリップは、驚くほど感じやすい心を持っています。二人は見捨てられ、傷ついていました。周囲の人は無神経に接していて、まったく信じがたい光景でした。二人にとって、友情や信頼関係が大切であることは明白です。あまりにも長い間、耳を傾けてくれる人がいませんでした。
 知的ハンディを持つ人は特別な治療を必要とする人ではありません。そうでなく、生きるよう力づけられ、また可能な限り成長し、自分の人生に意味を見出すように励まされ、整えてくれる環境を必要としているのです。
 ラファエルとフィリップのために何かをする必要がありました。さらに自立できるように成長を助け、人生の責任を自分自身でとれるようできる限り手伝わなければなりません。それはそうなのですが、彼らのもっとも深い要求はさらに別のところにあります。何よりも孤立している状態から出て、友を見出せるコミュニティーに属して、心から「一つになる親しい交わり」を生きることでした。