『蛙の祈り』その3

 《囚人とアリ》 
 その囚人は長年にわたり、独房に監禁状態で暮らしていた。誰に会わず、話を交わすこともなく、食事は毎回、壁の通り窓を通して出された。
 ある日、一匹のアリが独房に入ってきた。男は魅せられたようにアリの動き回るさまを見つめていた。もっとよく観察できるように手のひらにのせ、ちょっとした餌を与え、夜はブリキのコップの下に休ませた。
 そういうある日、彼は電流に撃たれたように悟った。アリの愛らしさをしみじみと感じられるまでに、独房での十年にわたる生活が必要だったと。
 
               (『蛙の祈り』 アントニー・デ・メロ著 裏辻洋二訳 女子パウロ会 1990年)