『蛙の祈り』その1

 雪の多い今冬、ちょっとユーモアがあって元気の出る話を聞きたいと思い、それにはアントニー・デ・メロ神父様の『蛙の祈り』が最適だと思い至りました。 この本の帯にはこのようなことが書かれています。 
 「ただのジョークと笑って読み進まないで、一度に一話。東西の知恵を見事に統合し、悟りに導く瞑想の種子として編まれた本です。」
 「サッと読んで、つぎのように言ってはいけない。「ああ、おもしろかった!この話はあの人この人にぴったりだ。」この本は、自分について、人生について、そのほか森羅万象について、何らかの照らしを願う人だけを別世界に案内します。」
 では、ご紹介します。


《カエルの祈り》
 ある夜、兄弟ブルーノが祈っていると、食用ガエルの鳴き声がうるさくてかなわない。気にすまい、無視しようと努めたが、気の散るのはどうにもならない。そこで彼は窓から顔を出して叫んだ。
「静かにしろ、祈っているんだから。」
 兄弟ブルーノは聖者の誉れが高かったので、彼が一喝するや、あたりはしんと静まり返った。生けるものはすべて固有の声を持っており、その声が祈りに具合のよい沈黙を生み出すのである。
 祈っていると、ブルーノのなかに別の響きが湧き起こってきた。
 「もしかして神はおまえの唱える祈りと同じくらい、カエルの鳴き声を喜んでおられるのではないか。」
 「カエルの鳴き声がなんで神を喜ばせるんだ」と、ブルーノは心中冷ややかに答えた。ブルーノのなかにさらに響き続ける声が言う。
 「神はなぜ、音なるものをつくり出したと思うか。」

 「よし、その答えを見つけ出してやろう。」ブルーノは窓から身を乗り出して叫んだ。
 「さあ、歌うんだ。」
 食用ガエルの調子のそろった鳴き声は、近隣のカエルというカエルの声を呼び集め、天空を震わせた。
 ブルーノがこの音を全身を耳にして聴いていると、カエルの鳴き声は神経に障る物音ではなくなってきた。鳴き声に抗うことをやめると、この鳴き声こそが夜の沈黙をいっそう豊かにしていると気づいたのである。
 こうしてブルーノの心は、生まれて初めて宇宙と調和した。
 彼は祈るということの内実をとらえた。
                  (『蛙の祈り』アントニー・デ・メロ著 裏辻洋二訳 女子パウロ会 1990年)