『高齢者の尊厳と使命』

『高齢者の尊厳と使命〜教皇庁信徒評議会〜』(カトリック中央協議会,1999年)　抜粋を掲載します。
《序文》
・教皇ヨハネ・パウロ二世は次のように話しています。「内面的孤独という誘惑に付け込まれてはなりません。あなたたちが抱えている問題がどうであろうと……次第に衰えゆく体力、社会的組織の不備、法制化の遅れ、エゴイスティックな社会の無理解にもかかわらず、皆さんは自分が教会生活の脇に置かれていると感じたり、息を切らして動き回る人々の目立つ世の中で、自分を役立たずの消極的な人間だと感じてはならず、またそうあってはならないのです。それどころか、皆さんは人間的に、精神的に人生の豊かな時期を生きている活動的な主体としての個人なのです。」
《高齢期の意味と価値》
・老いはわたしたちと一緒に育ちます。
・106歳になるリンダという女性は101歳の誕生日に次のように打ち明けています。「私は101歳になったけど、しっかりしているつもりよ。体はあちこち思うように動かないけど、精神で何もかもやり抜くの。体に邪魔されてたまるものですか。体には屈しないわ。老いに服さないから老いを生きてもいない。そりゃ、寄る年波には勝てませんよ。でもわたしはそれを重視したりしません。老境にあって、ただ一つの生き方は、神様のうちに老いを生きることだと思うの。」
・わたしたちは高齢者が自らの年齢の意味をしっかりとつかむように支援してゆく責任があります。つまり、高齢の人たちが、自らの真価を知り、拒絶、孤立、自分は役立たずだという、あきらめ、空しさ、絶望などの誘惑を克服するように手助けする務めです。
・わたしたちは、多忙、いらだち、不安、ストレスに悩まされて暮らしています。高齢期は、人間が単純さを取り戻し、観想に向かう時期です。
・高齢者は「存在すること」が「行動すること」や「所有すること」にまさる。
《聖書の中の高齢者》
・旧約聖書の中では、年老いた人に対する尊敬の念は、おきてともなります。「白髪の人の前では起立し……あなたの神を恐れなさい」(レビ19:32)
・受け継いだものを伝えることによって現在の意味を明らかにするのは、高齢者なのです。
・現代世界は、人生の意味と価値に関する真理を見失いました。それとともに老いと死の完全な意味も見失いました。
・祈りは、高齢の人たちが自分の人生を理解するための、もっともすぐれた手段です。祈りは一種の奉仕であり、全教会と全世界の善のために、高齢の人たちが果たすことのできる役務です。重い病を患っているお年寄り、あるいは寝たきりのお年寄りにも祈ることはできます。
・お年寄りにとって祈りは力であり、生活です。
・祈りをとおして、高齢の人たちは、他の人々の喜びと苦しみに参加し、孤立の壁を打ち破って、無気力な不毛の状況からの脱出を可能にします。
・老い衰え、体力の限界に達した高齢者は、寝たきりのままで、その祈りによって一人の修道者、隠修者ともなり、世界を抱擁します。
《教会と高齢者》
・高齢者にイエスの良い知らせを告げることは、教会の務めです。
・お年寄りに、できる限りキリストと出会う可能性を提供し、彼らが受けた洗礼の意味を再発見するよう助けるのは、教会の務めです。
・キリスト者は、その霊的歩みを無気力や疲労にじゃまされてはならないのです。
《高齢者司牧のための指針》
・宗教的な配慮や人道的な慰めも励ましもなく、死の危険が迫っている人を一人放置しておく現代の傾向には反対することです。この任務は、基本的には司祭の役割であるとはいえ、その人の家族と所属する共同体の役割でもあります。
・公共および民間の老人ホームや養護施設で暮らしているお年寄りたちに関心を寄せることです。もし、小教区共同体たちとのきずなを維持していれば、血を分けた肉親からの離別でお年寄りが受ける心の傷をいくらかは和らげられるでしょう。
・小教区共同体は「家庭の中の家庭」であり、高齢者たちと彼らが抱えている問題に取り組む、「福利厚生機関」のようなものでなければなりません。
《結び》
・お年寄りと一緒に歩き、お年寄りに歩み寄るのは、わたしたち皆の義務です。
・教会共同体は、高齢者が信仰の光に照らされて自らの老いを生き、彼ら自身が、他の人々への奉仕に役立てる能力をまだ持っていることを再発見し、他の人々に供与する責任があることを自覚するよう、彼らを支援しなければならないのです。……高齢者は、子どもたちに、青年、壮年の人たちに、そして同世代の高齢者たちに、キリストから離れては、個人の生活にも他の人々との生活にも意味がなく、喜びもないことをあかしする使命をまだ終えていないからです。
・教皇ヨハネ・パウロ二世は、ご自分の年齢を隠さず、平然と皆の前に立っておられます。飾り気のない単純さで、ご自分のことを「わたしは老司祭さ」と、事もなげに言われます。教皇は、信仰のうちに老いを生き、キリストから委ねられた任務を、年齢に左右されずに果たしておられます。