庭・聖体奉仕(7)

 桜の苗木を植える話から、庭を整備する話に発展し、その見積もりを取った。予想していたより高かったので、もう一社に見積もりをお願いした。すると1万円も安かったので、こちらにお願いすることにした。不景気のご時勢に安くお願いすることは、その会社にとっても苦しい経営となる。自分が得をする時は誰かが損をしている。自分が損をする時は他の誰かが得をしている。人に損をさせない余裕がこちらにあるといい、と思った。
 安田さんのところにご聖体を運んだ。寝ておられた。声をかけて起こそうかどうか、しばらくの間逡巡していたが、寝顔を拝見すると具合が悪いという訳ではなさそうなので、思い切って声をかけてみた。すると、すぐに目を開けて、私だと分かると私に向かって笑いながら合掌して身体を起こした。寝ていて申し訳ないという意味だ。「具合悪いんですか。大丈夫ですか。」と尋ねると、「いやぁ、何もすることがないから寝ていたんです。」と屈託のない顔でおっしゃったので安心した。子どもと高齢者にとっては一日の変化は大きいのでいつもどきどきしてしまうのだが、お変わりなくて良かった。しかし、安田さんは、以前は散歩に出かけたりしたが、今はもうだめなんです、とおっしゃる。介護士さんが散歩に誘って下さっても最近は断ってしまうとのことだ。すっかり足が弱くなってしまったと言う。車椅子や歩行器や杖という手段もあるので、私がそれらを示唆してみたが、そうしたものは使ったことも使うつもりもないとおっしゃる。どうもニュアンスからすると安田さんのプライドが許さないらしい。頼もしいことだ。「歩こうと思えば歩けるんです、ただこの頃は怠け者になってしまってね。」ということだ。かくして散歩にお連れしようと密かに目論んでいた私の計画は保留となった。ある意味、ここでの生活は日々是好日ではあるが、「虜になってしまった」という安田さんの言葉に対して、何もしてあげられないことがもどかしい。