福島復興物語

 「CLC通信(2011.vol.2)」に以下の記事を投稿しました。
他県から見た福島のイメージ
 「ああ、原発さえなかったら...」何度この言葉が福島県人の口に上ったことだろう。牛に与えていた稲わらが汚染されていたことが判明した時、古館アナは「福島の人は悪くないんです。福島の人に罪はありません。」と私たちに成り代わり懸命に弁明してくださった。その姿に心打たれ、ふと涙が出てきた。
 県外に出た時、私が福島から来ましたと挨拶すると、「ああ、放射能をもって来てくださったんですね。」と、その方にとっては他愛もない冗談を言われた。しかし、私の心は凍りついた。笑える問題ではなかった。福島と県外との間には大きな温度差があることを知った。
 温度差で逆に驚かされたのは、ラジオから流れてきた放送だ。関西の大学生が福島に来てびっくりしたというのだ。誰も防護服を着ていない!と。この学生は福島全県が放射能に汚染され、皆防護服を着て生活していると思っていたらしい。この大学生の驚きは私たちにとって、初めて来日した外国人が「日本人はちょんまげを結ってないんですか!」と驚く有様に遭遇したのと同じだ。マスコミが作り上げた福島のイメージなのだ。関西に住む私の友人も福島に行くと言ったら、必死に止められたそうだ。そして、どうしても行くというなら防護服を着ていくように、また、戻って来る時にはモニタリング検査を受けて、被曝していないという証明書を持ってくるように念を押されたと言う。知らないことからくる恐れはさらに恐れを増幅させる。これを福島の友人らに話すと皆一応に驚きあっけにとられ、そしてショックを受ける。
 放射能は大きな問題ではないと言えば国賊となり、大問題だと言えば福島のイメージをマイナスにし自分の首を絞めることになる。何とも複雑な気持ちだ。「福島原発」という名称ではなく「東電の原発」という名称であったら、福島はこれほどにダメージを受けなかったことだろう。名前の持つ影響力の大きさを痛感している。

福島野菜の販売を始める
 さて、私は今、福島の野菜の販売に奔走している。農家の方々の苦悩をつぶさに見、その痛みを知って以来、じっとしてはいられなかった。誰ひとりとして放射能汚染された産物を食べたいという人はいない。福島県人だって同様だ。そのような中、検査で安全確認された産品まで敬遠され、捨てるしかないというのは農家の方にとってもう一つの大きな深い悲しみだ。農家の死活問題だ。
 そんな中「二本松農園」の斉藤登氏はきゅうりの専業農家に過ぎなかったが、作る意欲をなくした福島県内の農家に呼びかけた。「作るのを止めないでください。私が何とか売り歩きますから」と。そしてインターネットで県内の農家の野菜を販売し始めた。今まで日本中の理解ある約5000人の方からご注文頂いた。また、ネット販売が功を奏して、「里山ガーデンファーム〜二本松農園」のホームページを見たいくつもの首都圏のイベント主催者から声がかかり、関東での販売も始まった。現在、県内の27の農家と提携し、安全基準を満たしたこれらの野菜をイベント会場などで販売している。
 まもなくマスコミも彼の活動に注目し、テレビ・新聞で取り上げられるようになった。それらは皆好意的だ。彼の福島の農家の再生にかける熱意と働きを評価しているのだ。
その反面、必ずつきものの反論もある。「東京都民をがんにするつもりか!」などといういやがらせメールも来る。だが、放射能の危険性は年齢が低いほど大きいので、小さなお子さんを持つ親御さんにとって神経質になるのは当然のことだ。それは理解できる。疑わしいなら避けるに越したことはない。

安全基準を満たしているが...

 野菜の放射能汚染に関して、私たちは県の検査結果を信じている。福島県環境保全農業課ではゲルマニウム半導体検出器で検査を行い定期的にその報告を公表している。県は身内である。誰が身内に虚偽報告して県民を滅ぼしてしまうようなことをするだろうか。スーパーマーケットでも合格した福島産の野菜や牛乳は店頭に並ぶ。私たち福島県民はそれらを購入し食している。それらの野菜を販売しているだけなのだが、他県の反応は二分する。理解を示し協力的な方とあくまで認めないとする立場の方だ。
 首都圏で販売していると、人々の優しさに出会う。販売の際には「福島野菜」と書いたのぼりを2本立てているので、買いに来られる方は福島野菜であることを100も承知だ。むしろ、福島野菜だから買うというお客様も多くおられる。誰も放射能の懸念を口にされることはない。おいしい野菜かどうかだけを問題としている。お客さんが一つ野菜を手に取られるたびに、私はそれを作った農家の方を思い浮かべる。心の中でその農家さんに「売れましたよ!」と報告する。あの農家さんがこれで助かる、と思うのだ。もちろんトマトが10個売れたからと言って、今までの販売先を失ってしまった農家さんの打撃に比して大海の一滴に過ぎない。でも、今の私たちにとって純粋に本当に嬉しいのだ。私たちにできる精一杯のところだから。
 もう一人感謝したい方がいる。川崎のTさんだ。福島野菜を買って下さいという私の呼びかけでさっそく動いてくださり、二本松農園から購入した野菜を教会で販売してくださった。しかし、次第に反対者の声が大きくなり、それは数回で終了となった。Tさんは、苦しむ福島県人に愛を注いだが故に、自らも十字架につけられてしまった。私としても何ともTさんには申し訳ない苦しい気持ちだ。どうか神様がTさんを癒し、その心を聖としてくださいますように。

人々の助け
 また、斉藤登氏が始めたこの事業は、震災に会ったために始めたものなので、販売に関しては素人だ。販路もまだごくわずかだ。イベントは一回限りだから安定性に欠ける上、場所代も請求されるので、単価の安い野菜販売者にとっては苦労が多く利益は少ないのが現状だ。定期的な販路が必要だ。今は、吉祥寺の修道会と教会、調布の修道会、港区の高齢者施設が協力してくださっている。とてもありがたい。販売の場所を提供してくださるだけでなく、人集めもしてくださり、購入してくださっている。
 このような地道な努力を重ねていると、県もその働きは県に貢献するものとして認め、助成金を出してくれることになった。販売員とトラックを6人分増員する。そのための準備が始まった。6人が宿泊できる一軒家を確保した。他県からも福島再建のために働いてくれる人を募集したい。
「二本松農園」電話0243−24−1001までご連絡を。