災害からの復興考

 今回の震災地域は東北でしたが、経済的被害からみると、それは日本全土に及んでいます。自粛で他県でも観光地のお客さんが激減したり、東北の工場と関わりを持っていた企業は必要部品が届かず製品が作れなくなったり、そして、各地の原発の停止からくる失業者の増加と電力不足からくる企業への影響、日本政府の賠償金や補償金など、日本は経済的に大きなダメージを受けています。
 日本はここからどう立ち上がることができるのか、それを考えた時に、日本人は復興に向けて着実に前進することのできる民族であることを私のみならずだれでも確信しているのではないでしょうか。
 アジアで初めて1998年にノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・セン博士(インド人)が、明治以降、日本の発展について興味深い分析をしているのでご紹介したいと思います。
 セン博士は経済学は数字だけを扱うべきではなく、弱者の悲しみ、怒り、喜びを考慮するのでなければ経済学ではないと主張し、経済学に哲学を盛り込み、血の通った経済学論を展開しています。
 『貧困の克服―アジア発展の鍵は何か―』アマルティア・セン著 集英社新書 2002年出版 の中で、インドの貧しさに比べて、日本はなぜ発展できたのかを分析しています。
「社会的チャンスを均等に分かち合うことができれば、多くの人々が経済拡大のプロセスに直接参加することが可能になる。…明治維新当時、日本人の識字能力の水準はヨーロッパを凌駕していました。…日本では、非常に早い時期から学校教育の普及と人間的発展を優先させてきました。それは、日本が豊かになってからはじめて導入されたものではありません。…発展のために何よりも最初になされるべきは、金持ちや地位の高い人々のためにではなく、むしろ貧しい人々のためになるような、人間的発展と学校教育の普及の実現です。インドでは、基礎教育をはじめとする、さまざまな人間的発展の中心的要素は、常に無視されつづけてきました。この事実が、インドの社会的、経済的低迷の原因です。…所得水準が相対的に低くても、教育と医療をすべての人に保障している国では、国民全体の寿命の長さと生活の質の向上に関して、驚くべき成果をあげることができるのです。…特に、女子教育の普及には、出生率だけでなく幼児の死亡率も低下させる効果があるのです…飢餓やその他の重大な危機が発生する際のきわめて重要な特徴は、不平等の存在です...。」
 セン博士のキーワードは「均等」「平等」「人間的発展」です。その裏には権威主義の否定があります。こうした考えから、初期の段階から人間的発展を目指し、人間の基本的な『潜在能力』の拡大を主眼とした戦略は生活の質の向上に貢献すると主張しています。そして、こうしたことはさらに、人々の生産能力にも影響を与えると分析しています。
 今、復興に向けての日本の姿勢はセン博士の唱える説を実現しつつあると私は感じています。菅政権に正義を訴えることができる自由、国民一人ひとりの潜在能力を発揮したボランティア活動、生活基盤を失った人が多いにもかかわらず飢餓問題が発生しない配慮など、こうしたことは経済的発展を目指したものではなく人間愛に基づいた活動であり、その結果として経済的発展を導く道を今、日本人は歩んでいるのだと、私は日本人を信じています。
 皆さん、力を一つにして復興のために頑張りましょう!